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熊本地方裁判所 昭和42年(行ウ)16号 判決

熊本県宇土市本町一丁目五四〇番地

原告

中田唯男

右訴訟代理人・弁護士

山中大吉

同県同市新小路町

被告

宇土税務署長

西田増人

右指定代理人・福岡法務局訟務部付検事

島村芳見

右指定代理人・熊本地方法務局法務事務官

永田已由

右指定代理人・大蔵事務官

上原光正

右指定代理人・大蔵事務官

宮田正敏

右当事者間の更正決定取消請求事件について、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

被告が原告に対して、昭和四一年五月二四日付所第七号をもつてなした昭和四〇年度分所得税の更正処分のうち、金四四万二、六二七円を超過する部分および過少申告加算税のうち、金一万三、〇〇〇円

を超過する部分はこれを取り消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

被告が原告に対して、昭和四一年五月二四日付所第七号をもつてなした昭和四〇年度分所得税の更正処分のうち、金一四万四、二五〇円を超過する部分はこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二事実関係

(請求原因)

一  原告は被告に、昭和四一年三月一四日昭和四〇年度分所得税を、別表「確定申告額」欄記載の経緯により、一八万二、五五〇円と確定申告したところ、被告は昭和四一年五月二四日付所第七号をもつて、別表「更正決定額」欄記載の経緯により、所得税を五四万七、六二〇円、過少申告加算税を一万八、二五〇円とする更正処分をなした。

そこで、原告は被告に対して昭和四一年六月二〇日、右更正処分に対する異議申立をなしたところ、被告は同年九月一三日「本件不動産の取得金額は五〇万円で、その取得時期は昭和三七年である。」との理由により、これを棄却したので、さらに原告は昭和四一年一〇月五日熊本国税局長に対して審査請求をなしたところ、同国税局長は昭和四二年六月八日右と同様の理由でこれを棄却し、同月一〇日原告にその旨通知してきた。

二、しかし、つぎの理由により、原告が譲渡所得の対象となつた別紙物件目録記載の土地・建物(以下、本件土地建物という)を取得するために要した金額は八〇万円で、しかもその取得時期は昭和三六年三月二九日であり、これを訴外瀬野哲郎に三〇〇万円で売り渡したのは、昭和四〇年三月二九日であるから、課税される所得金額は所得税法二二条二項二号により譲渡所得の二分の一となり、その結果原告に対する所得税は別紙「原告主張額」欄記載の経緯により、一四万六、七五〇円となる。すなわち、

(一) 原告の父訴外亡秀喜は訴外亡山川勢喜に対して、昭和三二年一二月ころ、少くとも三〇万円の債権を有していたところ、右山川勢喜は右秀喜に対して、右三〇万円の支払に代えて、本件土地建物を含む所有不動産のうち三〇万円に相当する部分の所有権を移転することを約し、代物弁済の予約をなした。

(二) ところが、右秀喜は昭和三三年三月二日死亡したが、その際原告はその相続人である母、兄弟と秀喜の遺産の分割について協議した結果、原告において右代物弁済の予約契約における右秀喜の地位を承継することになつたところ、右勢喜は原告に対して、昭和三六年三月二九日右契約に基づく代物弁済の目的物を本件土地建物と指定したが、その所有権移転登記手続をすることなく昭和三七年九月二八日死亡し、訴外小淵満子が相続して右勢喜の地位を承継した。

(三) そして、原告は昭和三七年一二月二七日右小淵満子から、本件土地建物に対する所有権移転登記を受けたが、その際原告は右小淵満子の立場に同情して、対価としてでなく単に涙金として五〇万円を交付した。

(四) 右のように原告は昭和三六年三月二九日代物弁済により本件土地建物の所有権を取得したのであるが、それから四年を経過した昭和四〇年三月二九日本件土地建物を訴外瀬野哲郎に三〇〇万円で売り渡した。

三、以上の次第で、原告の支払うべき所得税は別表「原告主張額」欄記載の経緯により一四万六、七五〇円であるから、被告のなした更正処分は所得税一四万四、二五〇円を超過する部分および過少申告加算税一万八、二五〇円の限度において違法であり、原告はその取り消しを求める。

(請求原因に対する認否)

一、請求原因一の事実は認める。

二、請求原因二の事実のうち、

(一)の事実は知らない。(二)の事実のうち、右秀喜が昭和三三年三月二日死亡したことは認めるが、右山川勢喜が昭和三七年九月二八日死亡したことは知らない、その余の事実は否認する。(三)の事実のうち、原告が訴外小淵満子から昭和三七年一二月二七日本件土地建物の所有権移転登記を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。(四)の事実は認める。

原告は本件土地建物をその取得登記の日の昭和三七年一二月二七日小淵満子、小淵宣雄から五〇万円で買受けて取得し、これを昭和四〇年三月二九日訴外瀬野哲郎に三〇〇万円で売渡したのである。

三、以上のとおり、被告が原告のなした確定申告に対して、前記の更正処分をなしたのは、原告のなした課税標準の計算にその取得時期を所得税法二二条二項二号に該当するように過去に遡及させた違法があつたからであるが、原告はその後本訴においてその取得に要した金額を五〇万円から八〇万円に変更している。

しかし、前記のとおり、要するに原告が本件土地建物を訴外小淵満子、同小淵宣雄から取得するに要した金額は五〇万円で、しかもその取得時期は昭和三七年一二月二七日であり、これをそれから三年以内である昭和四〇年三月三〇日訴外瀬野哲郎に三〇〇万円で売り渡しているのであるから、右については所得税法二二条二項二号の適用はなく、原告が昭和四〇年度に支払うべき所得税は別表「更正決定額」欄記載の経緯で五四万七、六二〇円であり、これに対する過少申告加算税は一万八、二五〇円となる。

したがつて、被告の更正処分は正当であり、ことさらに右取得時期、取得金額を異なるものとしてなす原告の本訴請求は理由がないから棄却さるべきである。

第三証拠関係

(原告)

甲第一・二号証を提出し、証人高田時男・矢野均・小淵満子・溝口利孝・中田一喜の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の一、二・第二ないし第六号証・第九号証の一ないし四・第一〇号証・第一二号証の成立は認めるが、その余の乙号各証の成立は知らない。

(被告)

乙第一号証の一、二・第二ないし第六号証・第七号証の一ないし三・第八号証の一、二・第九号証の一ないし四・第一〇ないし第一二号証を提出し、証人青木庄七・宍倉亀吉の各証言を援用し、甲第一号証の成立は認めるが、同第二号証の成立は知らない。

理由

一、請求原因一の事実、すなわち、原告がその主張するとおりの昭和四〇年度分所得税の確定申告をなしたところ、被告はこれに対してその主張するとおりの更正決定をなしたこと、および原告がこの更正決定に対してなした異議申立と審査請求がいずれも原告主張の理由により棄却されたことは当事者間に争いがない。そうすると、右更正決定の適否についての本件争点は譲渡所得の点に限定される。

二、そこで、つぎに原告に昭和四〇年度の譲渡所得として被告主張のとおりの所得があつたか否かについて判断する。

(一)  原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証と証人小淵満子の証言および原告本人尋問の結果によると、原告の父秀喜は訴外山川勢喜に対して昭和三二年一二月ころ、少くとも三〇万円の債権を有していたが、右山川勢喜には右三〇万円を支払うあてがなかつたので、右山川勢喜はそのころ右秀喜に、右三〇万円の支払に代えて本件土地建物を含むその所有不動産のうち、三〇万円に相当する部分の所有権を移転することを約したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  その後右秀喜が昭和三三年三月二日死亡したことは当事者間に争いがなく、証人中田一喜の証言によると、原告はその際右秀喜の相続人である母訴外中田エツ、兄弟の訴外中田一喜・同中田清司・同松尾節子・同中田秀子と右秀喜の遺産の分割について協議したところ、原告において右代物弁済の予約契約における右秀喜の地位を承継することで協議がまとまつたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(三)  成立に争いのない乙第三号証・同一二号証、証人青木庄七、小淵満子の証言および原告本人尋問の結果(ただし後記信用しない部分を除く)を総合すると、右山川勢喜は昭和三六年三月二九日本件土地を含め一筆を構成していた宇土市新四丁目二七三番・二七四番の土地のうち二六八坪五合を同番の三として分筆したうえ、訴外森山安雄に七〇万円で売り渡し、所有権移転登記をなしたが、その際にも右山川勢喜は原告に対して右代物弁済の予約に基づく目的物を指定したり、所有権移転登記をするようなこともなく、昭和三七年九月二八日死亡し、右三〇万円の支払に代えて該金額に相当する不動産を原告に移転するという約束は右山川勢喜の相続人である訴外小淵満子・同小淵宣雄に受け継がれ、同年一二月二四日ころ本件土地建物が右代物弁済の予約契約の目的物と指定されたが、その坪数、土地上の建物などを考慮すると本件土地建物は三〇万円以上の価値を有していたところから、原告は右小淵満子らと話し合つた結果、改めて追加金として五〇万円を支払つたうえ、同月二七日付で本件土地建物に対する所有権移転登記を受けたことが認められ、証人小淵満子の証言および原告本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく信用できない。

(四)  そして、原告が昭和四〇年三月三〇日訴外瀬野哲郎に本件土地建物を三〇〇万円で売り渡したことは当事者間に争いがない。

右認定事実によると、原告は昭和三七年一二月二四日本件土地建物を八〇万円で取得し、これを取得後三年以内である昭和四〇年三月三〇日三〇〇万円で売り渡しているのであるから、原告が本件土地建物を売り渡したのは所得税法二二条二項二号にいう長期譲渡に該当しないから、課税される所得金額は譲渡によつて取得した所得の二分の一とはならず、したがつて原告の支払うべき所得税は別表「当裁判所認定額」欄記載の経緯により、四四万二、六二七円となる。

三、そうすると、被告のなした更正処分は別表「当裁判所認定額」欄記載の経緯により、所得税四四万二、六二七円、過少申告加算税一万三、〇〇〇円の限度において正当であるが、それを超過する部分は違法であり、取り消しを免れない。

よつて、原告の本訴請求は被告のなした更正処分のうち所得税四四万二、六二七円および加少申告加算税一万三、〇〇〇円を超過する部分の取り消しを求める限度において理由があるから認容することとし、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤寛治 裁判官 中山博泰 裁判官 上野至)

別表

〈省略〉

物件目録

一、熊本県宇土市新四丁目二七三番、二七四番の一

宅地 二七九・三三平方メートル(八四坪五合)

一、同所同 番地の二

宅地 三〇〇・三三平方メートル(九〇坪八合五勺)

一、同所  一九番地 家屋番号同町一九番

木造草葺平家建居宅 六七・一平方メートル(二〇坪三合)

一、同所  同 番地 家屋番号同町一九番の一

木造瓦葺二階建居宅

一階 三一・四平方メートル(九坪五合)

二階 二二・四七平方メートル(六坪八合)

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